みなさんこんにちは。persheyです。
突然ですが、僕の奥さんの話をします。
奥さんは管理栄養士の資格を持っており、その経験と知識を活かして日々仕事をしています。
仕事柄・そして経験上栄養に関するいろんな話を知っている、ってわけです。
そんな奥さんとの会話で変わった話が出てきたので、それについて思った事を書きます。
玄米よりも白米の方が「食物繊維」が多い?
何でも、2020年に「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」というのが出されたらしいのですが、
その中でお米(白米・玄米)が含む食物繊維の量について注目してみましょう。
それぞれの摂取量100gに対し、玄米の食物繊維は1.4g、一方で白米の食物繊維は1.5gとあり、
なんと玄米よりも白米の方が食物繊維が多いことになっているそうです。
こめ[水稲めし] 玄米 | こめ[水稲めし] うるち米 | 参考:こめ[水稲めし] 発芽玄米 | |
---|---|---|---|
食物繊維総量(g/可食部100g) | 1.4 | 1.5 | 1.8 |
だけど冷静に考えてみればこれっておかしくないですか?
白米は皮などの食べにくい部分を玄米から取り除いて(精米して)食べるものなので、食物繊維が玄米より多いのは本来ならありえないはずです。
しかし食品標準成分表は国で調査して更新・発表している資料のため、
そこに大幅なデータの誤記があるとは考えにくいです。
一体何が起こっているんでしょうか。
前のバージョンと見比べてみよう
2020年に八訂版が出たってことは、それまでは七訂版だったということです。
そこで、七訂版と八訂版を比較してみることにしましょう。
前のバージョンと比べて変化があれば、八訂版で訂正された部分が影響を及ぼしているはずです。
同じく農林水産省のページを見ると,2015年に出された七訂版では以下のようになっていました。
こめ[水稲めし] 玄米 | こめ[水稲めし] うるち米 | 参考:こめ[水稲めし] 発芽玄米 | |
---|---|---|---|
食物繊維総量(g/可食部100g) | 1.4 | 0.3 | 1.8 |
これを見ると、”玄米や発芽玄米ではここ5年間で食物繊維総量が変わらない”ことと、
また"食物繊維が取れるような新しいお米の炊き方"というものも聞いた事が無いので、
「水稲そのものの品種改良や白米の炊き方で食物繊維量が増加した(対象の変化)」
という可能性は消えます。
測定対象に変化がなく、かつ母集団としての単位重量も変わらない…という事は、
「測定や分析の手法・条件が変わったことで取得されるデータが変わる(範囲の変化)」
という線が最も怪しく見えるので、この線で調べてみましょう。
七訂版(2015)→八訂版(2020)における変更点の記載
八訂版の説明pdfを読むと、以下のような文言がありました。
なお、追補 2018 年からは、食物繊維の分析法の検証調査7)の結果を踏まえ、食物繊維の分析法をそれまでのプロスキー変法及びプロスキー法に代えて、難消化性でん粉の全てと低分子量水溶性食物繊維を測定できるAOAC. 2011.25 法を採用し、~~~
https://www.mext.go.jp/content/20201225-mxt_kagsei-mext_01110_011.pdf
ということで、食物繊維の分析方法が七訂版以降から変更されたということが示唆されています。
さらに、食物繊維総量の項目を見ると、
AOAC. 2011.25法(酵素-重量法、液体クロマトグラフ法)
https://www.mext.go.jp/content/20201225-mxt_kagsei-mext_01110_011.pdf
・不溶性(難消化性でん粉を含む)、高分子量水溶性、低分子量水溶性及び総量。
プロスキー変法(酵素-重量法)
・不溶性(難消化性でん粉の一部を含まない)、(高分子量)水溶性及び総量。
つまり、「七訂版までの手法で測定した時は含まないものを、八訂版からの手法では含める」ということになります。(低分子量水溶性・不溶性の一部)
しかしこれでは「白米だけが増えていた」ことへの説明がつきませんね。
別表にプロスキー変法とAOAC.~法での測定結果をまとめてあるらしいので、見てみましょう。
こめ[水稲めし] 玄米 | こめ[水稲めし] うるち米 | 参考:こめ[水稲めし] 発芽玄米 | |
---|---|---|---|
プロスキー変法 での食物繊維 [g/可食部100g] | 1.4 | 0.3 | 1.8 |
AOAC.2011.25法 での食物繊維 [g/可食部100g] | N/A(記載なし) | 1.5 (不溶性0.6/低分子量水溶性0.9) | N/A(記載なし) |
そう、比較的新しく少なくとも2018年以降に導入された手法であることから、全ての食品を測定するのは時間的に難しく、「玄米」や「発芽玄米」に対しては、AOAC.~法による測定をまだ実施していないようなのです。
つまり、
「うるち米(白米)だけ先行して新しい測定手法による結果が載っていた」
(+測定法が違う旨が本表に書いていない)というのが今回の不可解な現象の真相というわけでした。
2015年に出された七訂版については、このAOAC.~法が導入されるに従ってどんどん追補が発行されていたため、今回の八訂版についても同様の追補が出される物と推測します。その時は、従来と同様に玄米や発芽玄米の方が食物繊維が多くなっている事でしょう。
そういえば、の「ひじき」についての話
丁度僕くらいの年代だと「ひじきは鉄分が多いから食べなさい」とよく言われたと思うんですが、
ひじきも時代の変化などに伴って含んでいる鉄分の量が変わった(とされる)事で有名です。
要は、
「昔は鉄鍋で煮込んだり鉄の包丁で切ってたからその成分が入ってたわガハハ」
「今は両方ともステンレスが主流だから全然溶けなくて、大体10分の1くらいが本当の量だよ」
という話のようです。(実は産地によっても異なるようですが、それはまた別の話)
出てくるデータをそのまま信用する事の危うさ
ひじきの話もそうですが、国の資料でも出てきた数字が事実をそのまま反映しているとは限らないです。
「国の調査だから間違いのないよう測定されている、すなわち信用できる」
という姿勢でいると今回のように「直感的にもおかしいと思える」ような結果を信じる事に繋がってしまい、
それに基づいて誤った判断をしかねません。
常にデータに対しては、
「前提条件」「その結果の測定方法」「対象の物質的変化」「時代の変化」
などが作用して変わり得るものであるという事を念頭に置くこと。
そしてデータに対して自分で正しさを検証した上で信用するような姿勢でいる事が、
これからの時代には必要になってくるんじゃないかと、この話を通じて僕はそう思いました。
なんだか説法くさくなってしまってすいません。
ちなみに、標準栄養成分表は栄養士はもちろん一般の人でも自由に閲覧できるので、
暇なときに見ると面白いかもしれません。
それでは、また。
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